2025.10.15 進路指導

帰国生を支えるための視点 その④「滞在ステータス」

吉田 栄一 写真
海外大学進学研究会コンサルタント吉田 栄一Eiichi Yoshida

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飛行機が飛んでいる空の画像

「滞在ステータス」の違いによる、帰国子女理解

海外からの帰国子女と一口に言っても、その背景は実に多様です。私たち教育者が、それぞれの生徒が持つユニークな強みと、表面には見えにくい課題を理解するためには、単に英語力、異文化経験と理解だけに注目するだけでは不十分です。その子どもの海外経験がどのように形成されてきたのかを的確に把握することが不可欠です。一人ひとりの生徒が抱える課題や可能性を正しく理解し、適切なサポートにつなげるために、本稿では 海外における「滞在ステータス」に着目し、それを「言語(英語力・日本語力)」・「文化・アイデンティティー」・「進学・キャリア」の3点に分けて考察をまとめます。

保護者の「滞在ステータス」(アメリカ(海外)滞在ステータス)に関して

駐在員家庭、永住家庭、国際結婚家庭など、家庭の滞在ステータスは、子どもにとっての「海外生活の位置づけ」を大きく規定する。すなわち海外生活を「一時的な経験」として捉えるのか、「生活そのもの」としているのかによって、言語力や文化的背景、将来の進路選択・キャリア選択に及ぼす影響は大きく異なる。以下に一般的な傾向をまとめる(ただし個人差があることを前提としたうえでの考察である)。

● 駐在員家庭―短期(駐在期間1年~3年):

言語(英語力・日本語力):短期間の滞在であり、身につくのは日常会話レベルに留まることが多い。帰国後は日本語環境に急速に戻るため、英語力は比較的早く失われやすい。

文化・アイデンティティ:家庭も本人も「一時滞在」という意識を強く持っているため、日本文化や日本語の基盤は揺るがない。現地文化は「経験」として残ることが多い。

進学・キャリア:進路選択は基本的に日本国内に焦点が当てられる。帰国子女と言っても、実務レベルの高い英語力(言語力)を伴わないケースが多く、海外大学や国際キャリアへの志向は限定的である。

●駐在員家庭―長期(駐在期間4年~8年):

言語(英語力・日本語力):学校で使用する学習言語(リーディング・作文・プレゼンテーションなど)をある程度獲得できる。英語での学習に一定の自信を持てるようになるが、専門性を要する学術的英語には課題が残る場合もある。

文化・アイデンティティ:日本人としての自己認識を維持しながらも、現地文化に強く適応し、二重の文化的視点を持てるようになる。その結果、アイデンティティの揺らぎや葛藤を経験することがある。

進学・キャリア:日本の大学進学がやはり基本線であるが、帰国生入試や海外大学への進学を選ぶケースも短期駐在に比べると増え、国際的な進路を志向する可能性が高まる。

● 永住権・市民権取得家庭

言語(英語力・日本語力):英語が基盤言語として強固に身につき、言語的にはネイティブに近いレベルに到達する。

文化・アイデンティティ:日本人としての意識を持ちながらも、現地社会で生活することが日常であるため、二重アイデンティティを経験する。文化的には柔軟で、複数の価値観を受け入れやすい。

進学・キャリア:アメリカ(現地)大学進学が自然な流れとなり、将来的には国際的なキャリア(日本から見た場合、現地での就職を含む)に進む傾向が強い。

● 国際結婚家庭(家庭内で異言語、異文化が混在している場合のことを指すという意味で、永住権、市民権を持つ家庭と区別)

言語(英語力・日本語力):家庭内での英語使用が多いと、自然に高いレベルの英語力を獲得しやすい。状況によっては日本語力が弱くなる可能性もあるが、バイリンガルとして育つケースも多い。

文化・アイデンティティ:家庭の中に複数の文化が共存するため、多文化を「自分の一部」として受容する感覚を持つ。文化的な柔軟性が高く、どちらか一方に偏らないバランス感覚を持つことが多い。

進学・キャリア:海外志向(これは、アメリカ・現地ということだけではなく、グローバルな視点という意味で、日本を含む外国全般)が強まり、長期的に国際的な環境で生きる姿勢(あまり場所にこだわらないキャリア展望)を持ちやすい。

では、私たちはこの情報をどのように活かせるのか?

「受け入れの際には、個々の生徒の滞在ステータスについて調査をする」個別のニーズ(何を活かし、どんなサポートが必要か)をしっかりと把握する

「日本語や学習面での見えないギャップを理解し、補習や個別の配慮を検討する」本人のニーズ(何を活かし、どんなサポートが必要か)をしっかりと把握する

「海外での経験や多様な文化を教室や学校で活かす機会を作る」本人が海外での経験や体験、身につけた能力などをプラスに捉え、それを活かして行こうという意欲を持てるようにリードする