「家庭内の言語環境」の違いによる、帰国子女理解
海外からの帰国子女と一口に言っても、その背景は実に多様です。私たち教育者が、それぞれの生徒が持つユニークな強みと、表面には見えにくい課題を理解するためには、単に英語力、異文化経験と理解だけに注目するだけでは不十分です。その子どもの海外経験がどのように形成されてきたのかを的確に把握することが不可欠です。一人ひとりの生徒が抱える課題や可能性を正しく理解し、適切なサポートにつなげるために、本稿では 「家庭の言語環境」に着目し、それを「言語(英語力・日本語力)」・「文化・アイデンティティー」・「進学・キャリア」に分けて考察をまとめます。
家庭内の言語環境に関して
日常的にどの言語を中心に生活しているかは、子どもの言語発達とアイデンティティ形成に直結する。
- 日本語中心:日本文化の基盤は強いが、英語習得に努力を要する。
- 英語中心:英語は強いが、日本語力に弱点が残る可能性。
- バイリンガル環境:二言語・二文化を自然に受容できるが、読み書きの力には意識的な支援が必要。
家庭内は日本語中心
言語(英語力・日本語力):学校や社会で習得する英語は限定的。基礎語彙(小さい頃から現地で育ち学校生活を送っていれば当然習得してきたであろう一般的な語彙)の習得と学習言語の習得に努力が必要。(注)もちろん、現地生でずっと学校教育を受けてきた場合には、家庭内の言語がにほんごであっても、十分な英語力(言語力)を身につけることができる。
文化・アイデンティティ:日本文化に根差したアイデンティティが強い。
進学・キャリア:日本進学に有利だが、国際舞台で活躍するためには言語面において追加学習が必要。特定の分野での専門性が高くなれば国際舞台で活躍するチャンスも広がる。(注)もちろん、アメリカ(現地)生まれの2️世として育った場合には、十分な英語力(語学力)を身に着けてアメリカの大学、国際的キャリアへ進むことが多くなる。
家庭内は英語中心
言語(英語力・日本語力):自然に高い英語力が身につくが、日本語に関しては補習授業校などでしっかり学ぶ経験をしないと、カタコトになってしまう。または、聞くことはできるが話せないというような状況になる可能性が高い。
文化・アイデンティティ:現地文化に強く同化しやすいが、日本文化理解が弱くなる可能性。年1回の一時帰国や、祖父母との関わりなど、それなりの努力をしないと、日本語が弱くなってしまう。(日本や日本語に対する良いイメージを持ってもらうことが大切)
進学・キャリア:アメリカの大学や英語圏の進学・キャリアに適合。日本での進学には日本語力不足が課題。日本の大学で、英語で学位が取れるということに興味を持つ者もあるが、実際には物足りなさを感じることもしばしばである。
家庭内はバイリンガル環境
言語(英語力・日本語力):両方の言語を生活の中で自然に獲得できる。ただし読み書きの習得には意図的な努力(補習校などの教育環境)が不可欠。
文化・アイデンティティ:二重文化を自然に受け入れる。自己認識に柔軟性が高い。双方の文化に対するリスペクトがあり、双方の文化的理解度が高い。
進学・キャリア:日本・海外どちらの進路にも対応可能。多文化理解を活かして国際舞台で強みを発揮できる。
「家庭内の言語環境」は、それだけで帰国子女の背景を決定づけるのではないが、それは、帰国子女の背景に大きな影響を及ぼし、一人ひとりに異なる状況を生み出している。まさに帰国子女の歩んできた道は千差万別であり、個別に応じた理解と対応が不可欠である。第6弾では、その多様な背景を捉えるための基本的な視点として、家庭内の言語環境に焦点を当て、考察を試みた。
では、私たちはこの情報をどのように活かせるのか?
「受け入れの際には、個々の生徒の家庭内の言語環境について調査をする」個別のニーズ(何を活かし、どんなサポートが必要か)をしっかりと把握する
「日本語や学習面での見えないギャップを理解し、補習や個別の配慮を検討する」本人のニーズ(何を活かし、どんなサポートが必要か)をしっかりと把握する
「海外での経験や多様な文化を教室や学校で活かす機会を作る」本人が海外での経験や体験、身につけた能力などをプラスに捉え、それを活かして行こうという意欲を持てるようにリードする