4 学校設定科目を何単位設けることができるか
海外大学に提出するパーソナルエッセーは応募者の「人となり」を表現したものであると以前のコラムで書きましたが、ここでいう「人となり」は、本人の過去の活動を踏まえた、学びの方向性もしくは「路線」が大きな要素となります。しかし、「人となり」は学術的な側面だけに表れるものではなく、一見すると学問とは無関係に思える活動にも表れます。つまり、パーソナルエッセーには、学術面を中心としつつも、本人の全体像が読み手に伝わる文章を書く必要があります。
この「人となり」を考える機会として、高校では「総合的な探究の時間」が設けられており、標準単位数が3から6単位、つまり毎年週1コマ乃至2コマの授業があります。しかし、パーソナルエッセーに繋がる調べ学習には、
① 個人単位の英語による発表の機会があり、
② 自らの関心の赴くままに次回の発表内容を変える自由があり、
③ 高校生活全体に亘って継続的に実施される
ものである必要があります。この3つを全て満たす調べ学習は現行の「総合的な探究の時間」ではまず提供出来ません。加えて、生徒の調べ学習が発展するにつれて英語による発表及び質疑応答の時間は長くなることも計算に入れておく必要があります。実施形態にもよりますが、仮に50分1コマで生徒に10分間の発表をさせた場合、1回の授業で発表と質疑応答が出来る生徒は (3名ではなくて) 2名が限界でしょう。
昔の学校ならこういった授業は放課後に設定することが簡単にできました。しかし今は働き方改革の影響で、公立高校はもちろんのこと、私立高校においても残業が非常に難しくなっています。私立学校は労働基準法をはじめとした労働関係法令が全面的に適用されますが、労働基準監督署からの是正勧告だけならまだしも、書類送検まで受けると新聞沙汰となって学校のイメージを著しく傷付けることになり、昨今の教員のなり手不足と相まって学校の人的資源を枯渇させかねません。国内大学向けの進学補習さえ予備校等から外部講師を招聘することが増えている現状において、調べ学習の発表を放課後に常設することには無理があります。
また、生徒の立場から考えても放課後の補習としての設定には限界があります。私が教えた海外進学コースの生徒も、部活動や生徒会本部役員としての活動に励んでいた生徒は少なくありません。また、いわゆる「帰宅部」の生徒でも地域でのボランティア活動等に取り組んでいました。こういった、個人の「人となり」に関わる活動を放課後の補習で阻害したのでは本末転倒です。更に、生徒を長時間学校に残すことには帰宅時の安全上の懸念もあります。
放課後の補習が期待出来ないのなら、こういった時間は平常授業で確保するより他はありませんが、これはそもそも「英語コミュニケーション」や「論理・表現」の学習内容には馴染まないものであり、伝習館高校事件をきっかけとした検定教科書の使用義務も遵守しなくてはなりません。そうなると、「主として専門学科において開設される各教科・科目」や「学校設定科目」の開講による問題解消を検討する必要が生じます。
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