2025.6.14 進路指導

海外進学コースのチェックリスト その4

森 成業 写真
海外大学進学研究会コンサルタント森 成業Seigyo Mori

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5 一般教員にとってのメリットは理解されているか

生徒・保護者のニーズとは煎じ詰めれば卒業後の進路の確保であり、高校、特に私立高校が生き残りの為に海外大学を自校の進学実績という「売り」に加えようとするのは何ら不思議な話ではありません。しかし、表立って言う教員は誰もいないでしょうが、海外進学コースの維持が「英語科の仕事」であり下手に関わると「余計な仕事が増える」と考えている教員は少なくありません。ある教員がどの校務にどのようなメリットがあると考えるかは、勿論その教員によって違いますが、メリットが感じられない仕事に対して億劫になるのは教員に限った話ではありません。海外進学コースが管理職以外の一般教員にとってメリットになり得る点には以下の四つが考えられます。

第一に、概して海外進学コースの生徒は主体性があり、自分に出来ることは自分でするので、ある意味では「手がかからない」と言えます。課外活動も「志望理由書のネタ」として教員が生徒に宛がうのではなく、生徒は自分で探してきます。その結果、教員は教科指導や部活指導などの他の校務に時間が割けます。どの学校でも「うちは面倒見がいい」つまり高校生活全般について手取り足取り指導をすると言いはしますが、海外進学における面倒見のよさとは、本人の学びの方向性・路線のサポートに関するものであり、そもそも自分が一体何のために勉強しているのかという理由を本人の代わりに教員があれこれ提供することでありません。また、このこと以前に、手取り足取りの指導を必要に応じて学校が行うのは、保護者にすれば当たり前の話であって、学校の「売り」にはなり得ません。勿論、海外進学コースに生徒が入れば自動的に主体性が身に付くということはなく、入学後の指導にかかっている点は想起する必要があります。

第二に、海外進学コースの生徒は概して勉強、特に英語に対するモチベーションが高く、その意味で学校の「レベル」を牽引する存在です。この点については「英語コミュニケーション」や「論理・表現」のような英語科の授業が他のコースの生徒との共修科目である場合によく分かります。英語でのディベートやディスカッションやプレゼンテーションで海外進学コースの生徒が他の生徒から頼られている様子は容易に想像がつくと思います。勿論この点についても、そういった活動が海外進学コースの授業で日常行われていることが前提条件です。

第三に、海外進学指導をとおして教員は進路指導を俯瞰することが出来ます。教員側からすれば、進路指導上最も手間がかかるのが海外大学進学であり、これに対して総合型選抜は、指導すべき内容は似ていますが、エッセー指導や大学探しなどの手間が海外大学ほどかかりません。学校推薦型 (公募推薦) は一発勝負の筆記試験の部分が総合型選抜より遥かに大きくなります。指定校推薦にも面接指導やエッセー指導がありますが、よほどのヘマをしない限り合格するので、指導は新人教員が担当する事も出来ます。一般選抜は一発勝負の筆記試験なので、進路指導よりも学習指導の方が重要です。つまり、海外大学進学指導を経験することは、国内大学の進路指導の在り方を改善するきっかけとなり得ます。

上に挙げた三つのメリットを超えるのが卒業生の大学進学後の活躍ぶりです。 海外の大学が「入りやすくて卒業しにくい」(合格も決して簡単ではないのですが) と言う人達にも海外大学の学生が勉強時間の点で国内大学の学生に圧倒的な差をつけていることはあまり知られていないようです。文部科学省が2012年に公表した中央教育審議会「予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ」(審議まとめ) 資料編1/2の中に「学生の学修時間の現状」というタイトルの、日米における大学1年生を比較した表がありますが、この表をみれば米国の大学生が勉強に明け暮れていることが分かります。ちなみに、国内大学の学生の勉強不足は令和4年度「全国学生調査(第3回試行実施)」の結果からも窺い知れます。海外大学卒業生の年収に関しては調査が進んでいないようですが、それでも2016年に発表された「大学・大学院留学経験がもたらす金銭的・非金銭的便益: 留学未経験者との比較分析に基づく一考察」という調査報告があり、この調査報告によれば20歳代以下で3年以上の学部留学を経験した人の年収平均値は3 ヶ月以上の留学を経験していない人の1.20倍です。これに関連して、HUMAN CAPITAL サポネットが2023年に実施した2024年卒の外国人留学生の採用に関する調査によると、外国人留学生が優秀だから雇用すると回答した企業は全体の73.3%であり、しかもこれは増加傾向にあります。海外大学に在学中、あるいは卒業して社会で活躍している自校の卒業生の話を聞くことは教員にとって大きな喜びであり、こうした卒業生を自校にゲストスピーカーとして迎え入れることは在校生のモチベーションを上げる要因となります。