7 ネイティブスピーカーの英語科教員は複数人配置出来るか
言うまでもないことですが、海外大学進学の土台となる英語能力はオールイングリッシュの授業を継続的に履修することによって培われていくものです。話を TOEFL iBT® のような語学能力試験の準備だけに絞っても、リーディングやリスニングは独習で出来ますが、スピーキング・ライティングセクションの対策は独習ではほぼ不可能です。また、中学3年生の生徒・保護者に対する広報を考えても、海外進学コースと銘打つ以上、ネイティブスピーカーの英語科教員は複数人いることが期待されます。
典型的な私立学校の場合は、臨時免許状・特別免許状を持っているネイティブスピーカーの常勤英語科教員が複数人いるので、オールイングリッシュの平常授業を設定することはそれほど問題にならないのですが、典型的な公立学校では、様々な制限がかかります。まず、JETプログラムのALTは校にふつう1人しかいません。また、ALTは教員免許状を持っておらず、ティームティーチングしか担当出来ないので、平常授業を設定する場合はパートナーであるJTEの持ちコマ数を有効活用しているのかという疑問が残ります。オールイングリッシュの授業を放課後の補習として設定しようとしても、ALTの1日の勤務時間は7時間なので、放課後補習の実施には大きな制限がかかります。加えて、ALTの (拠点校ではなくて) 訪問校である場合や、英会話学校などからパートタイムの派遣労働者や請負契約の講師 (典型的なALTの業務が請負契約で出来るものなのか疑問ですが) が来る学校では、授業にかかる制限は更に増えます。
この問題を部分的に解決する方法としては、国内大学向けの進学補習のように、外部講師を招聘する方法がありますが、生徒の課外活動等の時間確保を考える必要があります。また、オールイングリッシュの授業が担当できる日本人英語科教員の重点配置 (この「重点配置」は、よく考えるとおかしな言い方なのですが) も考えられますが、この点については別のコラムで触れたいと思います。
8 SAT®の数学が指導できる教員は何人いるか
以前のコラムで、SAT® を受験した方が有利かどうかは生徒の受験計画次第であることを紹介しました。SAT® はアメリカの標準学力テストです。The National Center for Fair and Open Testing という団体によればアメリカには現在4年制大学が約2,600校ありますが、このうち、SAT®のスコア提出を要求はしないが提出すれば考慮するという「テスト・オプショナル」(test optional) というポリシーを採用している大学が2,000校以上あり、スコアを合否審査で使用しない「テスト・ブラインド」(test blind) というポリシーを採用している大学が80校以上あります。しかし、その一方で、オーストラリアやニュージーランドには SAT®のスコアが一定以上であれば、ファウンデーション・コース (foundation course; 予備コース) を経由せず、直接学士課程に入学出来る大学があります。
SAT® は英語 (Evidence-Based Reading and Writing) 800点と数学 (Math) 800点の計1,600点が満点です。2023年のデジタル化に伴って英語の問題は簡素化され、自学自習がしやすくなりました (簡単になったという意味ではありません)。しかし、海外進学コースの生徒にとって重要なのは数学の方です。数学はアジアの高校生が得意とする分野であり、私が教えた生徒達がそうであったように、日本の高校生はふつう数学で高得点を取ることによって英語の点数の不足分を補います。私が勤務していた高校では SAT® の受験を義務化しておらず、私自身も英語科の教員で数学は苦手でしたが、SAT®の受験によって選択肢が広がる点を踏まえ、文系の生徒達にはどうか数学を嫌いにならないで欲しいと懇願し続けましたし、進路LHRで生徒と一緒に SAT® の問題を解くこともありました。
上述のとおり、SAT® の数学を指導出来る教員がいることは海外進学コースの設置にとって大きな強みとなりますが、問題はそのような教員の数が限られていることです。SAT® の指導を行う数学科教員が固定されたとしても不思議ではありません。この時、私立高校はともかく、公立高校の場合、人事異動で当該教員がいなくなると、次年度の担当者がいなくなる危険性があります。また、仮に SAT® を授業で指導せず、質問対応のみに限定したとしても、海外進学コースの生徒全員が当該数学科教員の平常授業を受けているとは限りません。日頃授業で教わっていない先生に質問をすることには、生徒と教員の両方に心理的抵抗があります。
SAT® の数学を指導出来る英語科教員の数は更に限られています。私自身が数学の指導は出来ませんし、私が渡り歩いてきたどの高校でも、数学が指導出来る英語科教員にはお会いしたことがありません。このように、文部科学省が奨励している「教科等横断的な視点」が教員の特別な知識及び技能に大きく依存している現状において、スーパーサイエンスハイスクール (SSH) のような「国際性を育てるために必要な英語での理科・数学の授業」を展開することは至難の業であると言えます。
※当サイトおよびリンク先のサイトに掲載されているコンテンツの著作権および著作者人格権は、当研究会または各コンテンツの権利者に帰属しています。
※TOEFL iBT® は Educational Testing Service (ETS) の登録商標です。
※SAT®、Advanced Placement®、AP®は College Board の登録商標です。
※This website is not endorsed or approved by ETS or College Board.