9 オールイングリッシュで授業が出来るレベルの日本人英語科教員は何人いるか
生徒が英語圏の大学に進学した後にはすべてが英語で行われるのだから、海外進学コースの生徒は高校の時から語学指導や進路指導をすべてネイティブスピーカーの教員から受けるべきだという考え方も分からなくはありません。特に、ネイティブスピーカーの教員を多数抱える高校では、その方が人材の有効活用という点で望ましいということもあるでしょう。ネイティブスピーカーの教員が多数いる高校なら、一人くらいは日本語が達者な教員がおり、話の肝心なところで突然英語に切り替わったとしても、概ね日本人教員相手の交渉役ぐらいはしてくれるものです。
英語圏での滞在歴が長い帰国子女だけで海外進学コースが構成されているのなら、すべて英語で行われた方が生徒の心理的負担が小さいのでしょうが、そうでない場合は、オールイングリッシュで授業が出来る程度の日本人英語科教員が居るべきであり、この日本人教員が必要とされる場面は進路指導と語学能力試験の二つに分類されます。
一つ目の進路指導に関してですが、日本語で生活してきた高校生がパーソナル・エッセーを仕上げるのには少なくとも半年かかり、しかも最低半年というのは自分の学びの方向性・路線を英語で表現する機会を十分に与えられた後での話です。英語で表現する機会がまだ十分でない生徒に対しては日本語が必要になります。例えば、英語によるプレゼンテーションにまだ慣れていない生徒に対しては、英語による質疑応答の後に、日本人教員が日本語でフィードバックを与えることが生徒のストレスを軽減し、プレゼンテーションの改善点もより明確になります。こういった発表の機会を平常授業で提供する場合、オールイングリッシュで授業が展開出来る日本人教員がいれば、ティームティーチングを組む必要がありません。また、生徒がパーソナル・エッセーを作成する段階においては、英語力が相当ある生徒さえ、言いたい事が全部英語で表現し切れておらず、書かれた英語によって何が言いたかったのかを日本語で尋ねる作業の連続になりますが、この点においてもオールイングリッシュで授業が出来る教員がいれば作業がスムーズになります。
二つ目の語学能力試験について、授業そのものはネイティブスピーカーの教員が行っても問題ありませんが、それでも試験についてアドバイスが出来る日本人教員は必要です。この点については私達が英会話学校等で TOEIC® のような語学能力試験用の授業を受けるとするのなら、授業の担当講師に何を期待するかと考えてみれば想像がつくと思います。必要となるアドバイスとは「問題の解き方」、つまり試験の「ポイント」や「テクニック」のような、実際に試験を受け、ある程度の点数を取った日本人でなければ言えない内容です。この類いのアドバイスが出来る教員が一人はいないと、海外進学コースに対する生徒の信頼が揺らぐことになります。
生徒にアドバイスが出来るためには、教員自身が TOEFL® や IELTSTM のような語学能力試験の試験勉強に取り組んだ上で受験するという経験が必要になります。この経験をしていれば、国内大学入試の英語問題とは全く違う内容のアドバイスをしなくてはいけないことが分かります。教諭・常勤講師にとって、試験勉強の時間を捻出することが非常に難しいのは言うまでもないのですが、この件に関してティーチャーズ・マニュアルを求めても徒労に終わります。私は行く先々の高校で、国内大学の入試問題を自分では解かず、赤本® などの解答解説を読んだだけで進学補習を行う教員を嫌と言うほど見てきましたが、TOEFL® 等の問題集の場合は、解説も全て英語で書かれているものが多いので、英語で書かれた教材を使う場合はこの方法が通用しません。ちなみに、私の当時の勤務校では、コース発足の2年前に英語科教員全員に対して TOEFL® を2年以内に受験せよとの命令が下りました。
上で述べた2点はいずれもネイティブスピーカーの教員の手が届かない領域であり、このような「痒い所」に手が届くかどうかが、海外進学コースの生徒に対する語学指導において重要となります。
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