2025.5.2 進路指導

本人が何を学びたいのか分からなかったら、どの学部への応募を勧めればよいのか

森 成業 写真
海外大学進学研究会コンサルタント森 成業Seigyo Mori

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この疑問というより不安は、海外大学進学に取り組み始めた頃の私が常に持っていたものです。この不安の原因は、当時の私がアメリカの大学と他国の大学の違いを理解していなかった事と、生徒が学術的に漠然と関心を抱いている内容について、それが何であるかを生徒自身が認識するまでの過程、つまり自分の「路線」とでも言うべきものを生徒が掴むまでの過程、それがイメージ出来なかった事にありました。このコラムでは「路線」にかかる諸般の事情および学校としてサポートが出来る事についてご紹介したいと思います。

生徒は自分の「路線」を高2終了時までにある程度まで把握している必要があります。私は以前のコラムでパーソナル・エッセーの重要性についてご紹介しましたが、何を学びたいのか分からない状態で高校3年生を迎えると、パーソナル・エッセーの土台が全くない状態で作成準備に取り掛かる事になります。「路線」の把握には長い時間がかかり、高校3年生の夏に大学のオープンキャンパスに参加する程度の事で分かるものではありません。

アメリカの大学にアプライする場合、生徒の「路線」を特定の学部や専攻の枠内で考える必要はありません。例えば、生徒が「マーケティングと心理学の両方を追求したい」と言い出したとしても、どちらかの領域に絞る必要はありません。アメリカの大学では、既存の主専攻にある授業のパッケージが自分に合わない場合は、学生が自由に授業を組み合わせて主専攻を作れます。この制度はアメリカ以外にはほとんどありません。また、アメリカの大学は、日本のように学部単位で生徒を募集しません。従って、18歳の段階で一度決めた「路線」を各専攻に分かれる2年後に変更しても、全く問題はありません。但し、パーソナル・エッセーや推薦状などの内容を踏まえて、合格通知と一緒に特定の「学科」(department) から奨学金のオファーが来る場合はあります。

「路線」は職業ではありません。生徒は自分の学びがまだ専門化されていないからこそ、大学へ入学した後に深く学ぶのであって、大学での学び以上に専門化している職業について高校生に決めさせる事には明らかに無理があります。また「20年後に既存の職業の約半分が自動化される可能性がある」と言われて10年以上が経っていますが、そのような変化の激しい時代において、高校生の未来を特定の職業に集約する事は危険でさえあります。

高校1年生・2年生のうちに生徒が自分の「路線」を考える機会を高校が提供出来れば、生徒にとって大きなプラスになります。しかし体制上それが不可能であるなら、外部団体のイベントを紹介する方法があります。最も有名なものの一つに通称「留フェロ」と呼ばれる「留学フェローシップ」というNPO法人の活動があります。留フェロは海外進学を志望する中高生が自分自身の学びを考える助けとなるよう各種の機会を提供しており、例えば夏休み期間中に行われる「SC1」という宿泊型サマーキャンプでは、海外大学の学生達が中心となって運営するワークショップが行われます。また、もう一つのサマーキャンプである「SC2」は中学2年生から参加が出来ます。但し、どちらのサマーキャンプも課題による合否の選考があります

私の当時の勤務校では、本人の関心と大学の現実の両面から「路線」を考える機会を提供しました。まず、 個人別の「探究学習」もしくは「調べ学習」の機会を豊富に与えました。探究学習・調べ学習は今や高校では当たり前となっていますが、その多くは少人数のグループによる活動であって、生徒個人単位のものではありません。調べた内容がグループ全員の「路線」になる事はまずないでしょう。従って、これだけでは不十分です。当時の私達は生徒に個人別ミニ・プレゼンテーションと内容に関する質疑・応答の機会を数多く与えましたが、本人が「路線」を把握するという目的に照らして、プレゼンテーションの出来栄えについて順位付けや評価は一切せず、本人の主観的な手応えを聞くのみでした。その際、生徒が自分で行ったミニ・プレゼンテーションのトピックに自分であまり関心を持てないなら、次回は他の、もっと関心が持てそうなトピックに挑戦するよう促しもしました。

その一方で、海外大学の現実も入学当初から紹介し、調べ学習もさせました。例えば、生徒に海外の大学を1校自由に選ばせ、次にその大学の「学科」や「主専攻」(major) や「専門分野」(concentration) などのウェブページをチェックさせ、関心がある領域 (例えば hospitality business) と同系列の他の領域 (例えば human resource management や financeなど) を比較して好き嫌いの順位表を作らせ、好き嫌いの根拠となるウェブページ上の文言を添えてレポートの形で提出させました。これは生徒が海外大学のウェブページに慣れるためでもあり、同時に既存の学問領域について生徒が大枠を理解するためでもありました。

当時の私の生徒の一人が留フェロのサマーキャンプから帰ってきて、私にこう言いました。「日本の進路指導は『名詞』重視で、海外の進学指導は『形容詞』重視である。」ここで「名詞」とは職業を指し、「形容詞」とは社会の変化に対応できる自分固有の特性や強み、つまりここで「路線」と表現したものを指します。