2025.6.13 進路指導

家庭は学費と生活費の工面ができるのか

森 成業 写真
海外大学進学研究会コンサルタント森 成業Seigyo Mori

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海外大学進学に限らず、お金の問題は誰にとっても悩ましいものです。当然ですが、海外大学に進学すれば学費・生活費の両方が必要になります。国と大学を一切選ばないのなら、学費・生活費は幾らでも下げる事ができますが、そんなことをすれば、学びたい事を学びたい環境で学ぶという本来の目的が果たせなくなります。ここでは工面すべき費用とその削減方法についてご紹介したいと思います。

海外大学進学一般を考えるなら、年間30,000米国ドルが捻出できるかどうかが一つの基準となります。これは30,000ドルが捻出できれば、大学選びで苦労する事はまずないという意味であり、例えば年間20,000ドルしか捻出できなくても、学ぶ目的が明確である限り、選択肢はいくらでもあるという意味です。

国や地域や大学によって学費・生活費は大きく異なりますが、概してアメリカの大学が一番高く、アメリカとほぼ同等の費用がかかるのがイギリスの大学です。一方で、日本の大学の学費・生活費は比較的安い部類に入り、MoneyTransfers.com という団体のデータを見るとドイツ・フランスと同程度であることが分かります。

ここからは費用の削減方法をご紹介します。まず、大学の学費・生活費などを合わせた年間総費用のことを「コスト・オブ・アテンダンス」(cost of attendance) と言い、これは各大学のウェブページに概算が掲載されています。ここから学費などに対して支給される奨学金 (scholarship) を差し引き、本当に家庭が支払う実費のことを「ネット・プライス」(net price) と言います。大学が奨学金を支給する場合、ふつうは合格通知のメールに奨学金の額も記載されていますが、まれに合格通知から数週間経ってから奨学金支給決定のメールが来る場合もあります。

大学から支給される奨学金には二種類あり、一つは大学が本人の入学を望むから支給される「メリット型奨学金」(merit-based scholarship) で、もう一つは本人にお金がないから支給される「ニード型奨学金」(need-based scholarship) です。海外大学の圧倒的多数は、優秀と見做した応募者に対してメリット型奨学金を支給します。一方で、難関校の一部は日本人のような外国人留学生に対してもニード型奨学金を支給します

従って、ある大学に行く費用を家庭が工面できるかどうかは、その大学のネット・プライスを見るまで判断が出来ません。しかし海外の大学が提示するネット・プライスにはある「落としどころ」があるようです。多くの海外大学では専用のコンピューター・システムを用いて応募者の管理全般を行っており、このシステムを「EMS」(enrollment management system) と言います。奨学金についても、各大学はどういった背景を持った応募者に奨学金を幾ら出せば何パーセントの確率で入学するかEMSを用いて観察しています。あくまでも経験上の話ですが、アメリカの大学が日本の家庭に提示するネット・プライスは年額約30,000ドルである事が多いようです。そして、他国ではネット・プライスの落としどころが5,000ドルから10,000ドル低いようです。初めに年間30,000米国ドルが捻出できるかどうかが一つの基準と述べたのはここに理由があります。

しかし、30,000ドルを簡単に捻出できる家庭はそう多くはない筈です。そこでローンを組むか、日本国内の奨学金に応募するかという選択になります。アメリカにも外国人留学生のための「学生ローン」(student loan) があるにはあるのですが、アメリカ人の保証人がいなければまず無理だと考えた方が良いでしょう。

日本国内で比較的募集人数が多い奨学金は三つあります。日本学生支援機構 (JASSO) の「海外留学支援制度 (学部学位取得型)」では第8希望まで志望校を設定でき、2024 年度の採用人数は 100 名でした。グルー・バンクロフト基金の奨学金はアメリカの名門「リベラル・アーツ大学」(liberal arts college; 小規模私立大学) への進学を希望する者に支給されており、採用人数は例年10名です。柳井正財団の奨学金はアメリカやイギリスの難関校へ進学する者に支給され、「予約型」と「合格型」を合わせた採用人数は約40名です。こういった奨学金への応募には JASSO では TOEFL iBT® で80点以上など、高い語学能力が必要です。

ここまで学費・生活費とその削減方法についてご紹介しました。繰り返しになりますが、ある大学の費用が工面できるかどうかは、その大学が提示するネット・プライスを見るまで判断出来ません。そこで海外大学進学においては沢山の大学にアプライし、合格した大学の中から文字通り「自分を高く買ってくれる」大学を選ぶ事が必要になります。私の当時の勤務校で生徒は少なくとも10校にアプライし、15校にアプライする事も珍しくはありませんでした。実は海外大学進学では、沢山の大学にアプライする事が作業的にも費用的にもあまり負担にならないのですが、この点については別途ご紹介したいと思います。