2025.6.13 進路指導

合否を予測する指標はどこにあるのか

森 成業 写真
海外大学進学研究会コンサルタント森 成業Seigyo Mori

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この質問は校内の、海外進学コースに関わっていない教員から受ける事がありました。これは高校が国内の大学受験に際して Benesse の COMPASS や河合塾のバンザイシステムのような合否予測システムを用いている事を考えると当然の質問なのですが、海外大学進学ではそのような指標がありません。ここでは合否予測をしたくても出来ない背景をご紹介しましょう。

まず、これは至極当然の事ですが、日本の高校生は海外大学に「外国人出願者」(international applicant) としてアプライするので、現地の高校生との単純比較は意味を為しません。

次に、以前のコラムで海外の大学で合否が「アドミッション・オフィス」(admission office) メンバーの挙手によって決められる事をご紹介しましたが、この方法で合否が決定されるのは、アドミッション・オフィスが応募者一人一人の「伸びしろ」つまり入学後どれだけ活躍してくれるかを検討するからです。そして、ここで言う「伸びしろ」は学業面だけではなく、スポーツなど他の面においても検討されます。日本の大学は「一芸入試」や「スポーツ推薦」といった枠と定員を定めていますが、海外の大学にもこういった特別枠は存在します。しかし日本の大学と違うのは、単に特別枠だけでなく、全ての合否決定において応募者の全体像が審査される点です。この点だけで既に日本式の合否予測が出来ない事が分かります。

しかし、アドミッション・オフィスによる合否決定はメンバーの主観だけで決まっているのではありません。合否決定の上で念頭に置かれているのは新入生の多様性です。つまり、各大学は新入生全体が人種・国籍・家庭の所得水準・スポーツなど、様々な項目でバランスの取れた構成になるよう合否決定を行います。この多様性を確保する方針は、大学自体の発展の問題であると同時に法の下の平等の問題でもあり、アメリカでは多様性を確保するために数々の法律が制定されてきました。概して日本の大学入試における「平等」とは筆記試験などの点数を平等に扱う事を指しますが、海外大学進学における「平等」とは応募者の「人となり」を平等に扱う事を指します。各大学が設定している新入生のバランスは大学によって違い、加えてバランスは毎年調整されます。こういった事情から、例年なら合格する筈の高校生が不合格になるなどの番狂わせが発生します。

このように、海外の大学は合否予測が日本より遥かに難しいものです。アメリカには「ニーシュ」(Niche) という大学情報検索ポータルがあります。各大学のページを見ると、高校の評定平均を縦軸に、SATのような全国標準学力テストの点数を横軸にしたグラフがあり、合格者や不合格者の数字がグラフ上の点として掲載されていますが、難関校を含めて、このグラフからは何の傾向も読み取れません。こうして見ていくと、海外進学準備においては、世界大学ランキングに見られる大学の知名度やSATの点数などの数字でアプライ先を決める事が如何に危険な賭けであるかが想像できると思います。

私の当時の勤務校では、毎年生徒達がアプライした大学のほぼ全てに合格しました。当時の私はこれが海外進学の常識なのだろうと考えていましたが、今振り返ると進路指導の基本を踏襲していたからだと思います。その基本とは、各生徒が自分自身の「人となり」を理解するための機会を学校が繰り返し与え、アプライ先についても、大学の名前ではなく、自分がこの先活躍できるかどうかを基準に生徒主体で選ばせた事です。生徒本人にせよ学校にせよ、地道な努力をする事によって合格率が上がる事に変わりはなく、そしてこれは日本の大学入試事情にも十分当てはまる話です。