2025.3.27 進路指導

国内の大学との併願は可能なのか その2:パーソナル・エッセー

森 成業 写真
海外大学進学研究会コンサルタント森 成業Seigyo Mori

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私は前回のコラムの中で、海外進学準備の柱が TOEFL® などの英語能力試験で所定の点数を取る事、「パーソナル・エッセー」(personal essay) を作成する事、そして高校での評定平均 (grade point average: GPA) を可能な限り上げる事の三つであると書きました。今回は海外進学準備におけるパーソナル・エッセーの重要性について書きたいと思います。

日本の大学に提出する一般的な志望理由書や自己推薦書は「過去」(今までに何をしてきたのか)、「現在」(今までの活動から考えて、自分の特性が何であると考えるのか)、「未来」(自分の過去と現在を踏まえて、これから「貴学」で何を学びたいのか) の三つを含むものですが、パーソナル・エッセーは、この志望理由書から「貴学」の部分を取ったもので、その意味では「自己PR」と考えてもよいでしょう。海外進学準備では、「貴学」の部分、つまり何故この大学で自分の学びたいことが学べると考えるのかについては、大学の要求に応じて、別途書いたり、書かなかったり、パーソナル・エッセーに組み入れたりします。

どれほど輝かしい学校生活を送ってきた生徒でも、パーソナル・エッセーの完成に少なくとも半年はかかります。これは、エッセー指導で最も根気の要る事が英文の校閲ではなく、原稿に書かれている内容について生徒と対話を重ねる事にあるからです。対話を重ねる事をとおして、生徒は自分がエッセーで表現したい内容を明確にし、その内容を自分の英語で表せるようになります。どのようなエッセーの作成もまずブレインストーミングを行う事から始まりますが、パーソナル・エッセーの指導にかかる生徒との対話は、このブレインストーミングの続きだと考えればよいと思います。生徒が何度もエッセーの校閲を受けていることは「アドミッション・オフィス」(admission office; 応募者の合否を決定する専門部署) も承知の上であり、文面から読み取れる生徒の「人となり」が評価されます。

はじめに述べた「貴学」にかかる部分は、オンラインでのオープン・キャンパスやアドミッション・オフィスとのメールでのやり取りなどを踏まえて書くのが一般的です。日本の大学入試事情から考えると俄かには信じ難い内容でしょうが、海外のアドミッション・オフィスは、高校3年生だけでなく、2年生が直接問い合わせのメールを送っても返事が来ます。勿論、無意味なメールは歓迎しませんが、問い合わせやお礼のメールのやり取りをとおして、アドミッション・オフィスは、それを迷惑に思うどころか、この高校生が真剣にアプライを検討していると考えます。この開放性が日本の大学入試と根本的に違うところです。アメリカの大学には「早期出願」(early application) の制度があり、エッセーの提出など全ての手続きは11月1日締切が一般的です。

ここに国内の各種推薦入試や一般入試のスケジュールを重ねると、生徒がどれほど忙しくなるかがある程度イメージできると思います。あくまでも経験上の話ですが、生徒のパーソナル・エッセーは締切直前まで仕上がらないものです。つまり10月は生徒にとって最も悩ましい時期になりますが、その一方で日本の大学ではこの前後に各種推薦入試で何らかの筆記試験や面接などが実施されます。また、面接や志望理由書の作成上、各大学のオープン・キャンパスに参加する必要もあるでしょうが、オープン・キャンパスはふつう夏休み始めの7月下旬から8月初旬です。さらに、アメリカの大学では「レギュラー・ディシジョン」(regular decision) と呼ばれる一般出願制度がありますが、アプライの締切はふつう1月初旬です。大学入学共通テストの本試験が1月中旬なので、国公立大学との併願を考えると、この時期も多忙になります。

このように見ると、併願先の筆記試験の科目数をなるべく絞り、且つ出願のタイミングを慎重に計画する事が共倒れにならないために必要となります。パーソナル・エッセーを英語で書き、アドミッション・オフィスと頻繁に連絡を取り、TOEFL®のような英語能力試験で高得点を取った生徒にとって、国内の大学との併願は、内容の上で難しいと言うよりは、スケジュールの上で難しいと言った方が良いでしょう。