当時勤務していた高校で海外進学コースを担当していた頃、私はこの質問をいろいろな人から受けました。これと関連する質問に「海外大学卒業後の就職先は外資系しかないのか」というものもあります。
こういった質問の背景には今も日本社会に根強く残る学歴主義があるのですが、この「学歴」主義に関して世間の口に上る事は、ある人が高卒か大卒かという事ではなく、どこの大学を卒業したかという事なので、「学校名主義」と呼んだ方が現実に即しているようです。つまり上に挙げた二つの質問は、「旧七帝大や早慶クラスの日本の大学かそれと同等の知名度を持つ海外大学を卒業していないと、日本の大手企業から見向きもされないのではないか」と言い換えてよいでしょう。しかし、そのようなことはありません。
海外大学を卒業する学生間で最もよく存在が知られている就職活動は、株式会社キャリタスが実施し、通称「ボスキャリ」と呼ばれる「ボストン・キャリア・フォーラム」(Boston Career Forum) への参加です。これは「日英バイリンガルで学士以上 (学士、修士、MBA、博士等) の学位をお持ち/取得予定の方」が参加できる就職活動イベントで、外資系企業だけでなく日本を代表する企業が軒を連ね、毎年100社以上が参加します。キャリタスはロサンゼルス・ロンドン・東京・大阪でも同様のイベントを実施しており、他には株式会社マイナビが Global Career EXPO というイベントを東京で実施しています。これらのイベントは合同説明会であるとともに各企業が有能と見込んだ参加者に内々定を出す選考会でもあります。但し、このイベントに参加すればいきなり内々定が貰えるということではなく、エントリーした企業による選考がイベントの数か月前からあり、最終選考だけがこのイベントで実施されます。ちなみに、ボスキャリはふつう大学の3年生から参加します。
ボスキャリのようなイベントは海外大学を卒業する学生を念頭に置いたものです。主催者であるキャリタスが設定しているボスキャリの参加条件は緩いのですが、これに加えて、それぞれの参加企業は独自の条件を設定しています。問題はこの条件で、海外の大学や大学院の卒業見込である場合が多く、交換留学生でさえエントリーの対象外である場合もあります。大学の知名度に関する文言は一切見られません。
このように、海外大学の学生が就職活動を行うにあたって、大学の知名度は問題になりません。海外大学の学生が1日平均5時間勉強する事は企業側も知っており、そういった理由からも多くの企業が海外の大学生以外は、知名度の高い大学も含めて、エントリーの対象外としています。そこから先は人物如何の問題です。
イギリスの「タイムズ・ハイアー・エデュケーション」(Times Higher Education) にあるような世界大学ランキングは、国内大学受験用の偏差値ランキングとは全く異なるものです。世界大学ランキングは大学が学生に提供するサービスの良さを測定したものであり、学生の優秀さの指標にはなり得ません。一方で、偏差値ランキングの方も学生の優秀さの指標であるとは言い難い面があります。いずれにせよ、この全く異なる二つが同等に扱われている現状を考えると、日本人一般は有名なものに弱いのではないのかとさえ思われます。
最後に、海外大学の学生が日本独自の制度である新卒一括採用枠で就職する方法もあります。アメリカの場合、卒業はふつう5月であり、一方で新卒一括採用枠での採用はふつう4月1日段階で卒業していることが条件となりますから、これでは就職に間に合いません。しかし、海外の大学は所定の単位を取得すれば半年前に卒業することが可能なので、新卒一括採用枠での就職にも間に合います。
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