2025.5.2 進路指導

世界大学ランキングは何の指標か

森 成業 写真
海外大学進学研究会コンサルタント森 成業Seigyo Mori

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「海外大学もピンからキリまである」式の発言をする人には今まで数限りなく会ってきましたが、ではどの大学が「ピン」でどの大学が「キリ」なのかと尋ねても、まともに答えられた人には今まで会ったことがありません。このコラムでは、世界大学ランキングが「ピンからキリまで」の指標になり得ない事情をご紹介します。

学士課程を持つ4年生高等教育機関は現在アメリカに約2,600校あり、カナダにある大学の数は約440イギリスは380以上です。ちなみに日本にある大学および大学校の数は約800です。このように世界中に大学がひしめき合っている現状で、各大学が世界大学ランキングを有効な広報ツールとして活用しようとするのは当然の事です。イギリスの「タイムズ・ハイアー・エデュケーション」(Times Higher Education) のランキングには日本の大学が約140校も応募しており、そのうちの25校は「reporter」(報告校) として、つまり格付けに必要な条件を満たしていないのでランキング外として掲載されています。日本版ランキングのための学生調査への協力をウェブページ上で呼びかけている大学もありますし、アメリカではコロンビア大学 (Columbia University) が「USニューズ&ワールド・レポート」(U.S. News & World Report) の大学ランキングに事実と異なる情報を提供した結果、ランキングが実際よりも上位になっていた事が2022年になってから発覚し、これは日本でも取り上げられました。

このように大学の側は世界ランキングに敏感ですが、それを眺める私達にとっては、世界ランキングがアプライする大学を決める上で役に立つ事がないようです。各ランキングサイトが格付けの際に使う方法 (methodology) を見ると、評価の観点が大学の研究成果に偏っている事が分かります。例えば、タイムズ・ハイアー・エデュケーションの方法では、研究に関わる調査項目で格付け全体の約6割が決定され、研究者同士の専門領域に関わる相互評価 (research reputation) だけで全体の18%を占めます。USニューズ&ワールド・レポートの方法では、卒業率が16%から21%を占めており、この点は参考になりそうですが、その卒業率とUSニューズ&ワールド・レポートが予め決めた「予想値」(predicted graduation rate) なるものの比較が別途10%を占めています。また、研究者同士の相互評価 (peer assessment) は20%を占めており、これはタイムズ・ハイアー・エデュケーションよりも高い割合です。学士課程の外国人学生になろうとしている日本の高校生にとって、こういった項目が重要であるかどうかは甚だ疑問です。また、私達にとって遥かに重要である外国人学生の全学生に占める割合ですが、タイムズ・ハイアー・エデュケーションでは僅か2.5%しか考慮されておらず、USニューズ&ワールド・レポートでは項目そのものがありません。これは世界ランキングが本国人の便宜に供するものである事を示唆しています。

世界ランキングが大学選びで役に立たない上に、大学卒業後の社会的な成功の指標としても役に立たない事をご紹介します。ある人の持つ資産がその人の社会的な成功のシグナルであるという前提の元に、2024年度のデータを用いてアメリカのフォーブズ誌 (Forbes) に掲載されている各州の長者番付1位の人物が卒業・編入・中退した大学の学士課程の大学をタイムズ・ハイアー・エデュケーションのランキングと照らし合わせると、ランキング20位以内の大学の出身者は僅か10人と分かります。同じ基準で日本人長者番付の上位50人を見ると、ランキング20位以内にある大学の出身者は、カリフォルニア大学バークレー校 (University of California, Berkeley; ランキング9位) を卒業したソフトバンクの孫正義氏のみです。この日本人長者番付での出身校で最も多いのは慶應義塾大学 (中退者を含めて10名) ですが、慶應義塾大学のランキングは601位から800位です。こういった事については教育経済学の先生に是非本を書いていただきたいと思います。ちなみにタイムズ・ハイアー・エデュケーションのランキングでは201位以下にはっきりとした順位が出ません。

私は以前のコラムで、海外大学の学生が就職活動をする際、世界大学ランキングの順位が関係する事はないと書き、その中で国内の偏差値ランキングとは全く異質のものであるとも書きました。更にこのコラムでは大学選びにおいても社会的成功の指標としても役に立たないと書きました。それでも難関校・有名校に行かせると子供に「箔が付く」と思う心情は理解出来なくもありません。この親心が過ぎて取り返しのつかない悲劇を生んだのが2019年にアメリカで発覚したスキャンダルです。自称「教育コンサルタント」のリック・シンガー (Rick Singer) は、スタンフォード大学やイェール大学やカリフォルニア大学ロサンゼルス校のような難関校でさえ、マイナーな競技のスポーツコーチ達が資金難に喘いでいる事を逆手に取り、スポーツ推薦枠を使って裏口入学の斡旋を繰り返しました。この後、リック・シンガー本人、難関校のスポーツコーチ達、更に我が子を名門校に入学させようとして賄賂を贈った資産家達の計 50 人以上が 2019 年に逮捕・起訴され、不正を全く知らなかった子供達は世間から裏口入学の烙印を押されました。ある高校生が自分の学びを追求した結果として難関校に入学したとすれば、それは素晴らしい事です。しかし、難関校に入学する事自体が目的となれば、それは本末転倒というものです。