「海外での滞在期間」の違いによる、帰国子女理解
海外からの帰国子女と一口に言っても、その背景は千差万別です。私たち教員がそれぞれの生徒が持つユニークな強みと、見えにくい課題を理解するためには、単に言語力(英語力)、異文化経験と理解だけでなく、その海外経験がどのように形成されたのかを知ることが不可欠です。一人ひとりの生徒が抱える課題や可能性を正確に理解し、適切なサポートにつなげるために「海外での滞在期間」の観点から考察をまとめます。
1〜2年の短期滞在の場合:
◆言語習得
英語(または現地語)
・日常会話レベルはある程度身につく可能性がある。ただし、学術的言語能力(読み書き、論理的表現・学習言語)は習得が不十分なまま帰国することが多い。
日本語
• 基礎的な日本語(既に習得したレベルまでの日本語力)は、ほぼ維持することができる。短期間なので、日本語力(日本語学習)に大きな空白が生じるリスクは比較的低い。
◆文化適応
• 異文化体験は「印象・イメージ」といった無意識の部分で残るが、実際の文化理解は浅い場合が多い。
• 多文化環境に対する好奇心や柔軟性は育つが、「外国は楽しかった/大変だった」というイメージや感想レベルにとどまることが多い。
◆帰国後の影響
• 帰国後、同年代の「海外経験者」としては「英語(外国語)ができる」と期待されるが、本人はそれほど力をつけられていないケースもある。そのため、帰国子女であること、海外経験があることをポジティブに捉えていない場合もあり、聞かれるまでは言わない、帰国子女であることを隠すなどが見られることもある。
• 異文化適応の経験そのものは、学力、言語力、多様な経験としてアドバンテージになるというよりは、長期的にみれば「新しい環境に挑戦する耐性と経験」として生きることが多い。
小学校〜中学校の時期を含む3~6年の中期滞在
◆言語習得
英語(または現地語)
• 日常会話に加えて、学校生活に必要な学習言語(リーディング・作文・発表)が身についてくる。
• 特に小学校中学年(海外生活黄金期)から滞在した場合、両言語を並行してある程度バランス良く習得できる可能性が高くなる。
日本語
• 補習校での日本語学習や家庭学習(通信教育教材、くもんなど)を継続すれば、日本語力の維持も十分可能である。
• しかし、日本語の抽象的・高度な表現や理解(漢字・読解力など)は使用頻度や触れる頻度が少ないため、弱くなりやすい。
◆文化適応
友人関係や部活動、地域社会への参加などを通じて「現地文化を体感的に理解」できる。
• 多文化環境における多様で柔軟な対人スキルが形成されはじめる。
• ただし、思春期に入ると「日本人としての自分」と「現地の友人との違い」に悩むケースもある。
◆帰国後の影響
• 英語力は帰国後も比較的高く維持され、進学において「武器」になることが多い。
• 「日本語・英語の両方が中途半端になる(セミリンガルになる)」という課題を抱えるケースもあるが、継続的支援や集中的努力で克服は可能。
• 「外国で暮らした経験」「異文化適応の経験」を自己認識でき、自信を持って帰国子女であることを認め、進路選択等に活かすことができる。
幼少期から高校卒業までの間、7年以上に渡る長期滞在
◆言語習得
英語(または現地語)
• 現地での生活様式にもよるが、一般的にはネイティブに近いレベルに到達しやすい。
• 思考言語が日本語から英語(現地語)に移行することが多いため、大学進学やキャリア選択においても、言語力や異文化体験の強みを発揮できる。
日本語
• 家庭や補習校で継続的に学んでいない場合、日本語力(特にアカデミックな読解・作文)は大きく弱体化する可能性が高い。
• バイリンガル教育の成果は「家庭・学校・本人の努力」のバランスに大きく左右される。
◆文化適応
• 文化的には「現地の価値観」を強く内面化している(アメリカナイズ・現地化している)ケースが多い。
• 一方で「自分は現地人でも日本人でもない」というアイデンティティの揺らぎを経験するケースも見られる。
• 異文化適応力(2言語、2文化で育つ経験値は、単にダブルではなく、更に大きい)は極めて高く、グローバル環境で柔軟に対応し活躍できる素地が形成される。アメリカ(現地)において、ネイティブといっしょに過ごす、活動するなどに全く違和感、抵抗がない。
◆帰国後の影響
• 日本への再適応に大きな困難を伴うことがある(学習方式・人間関係・校則文化など。日本を窮屈であると感じることなどが多い)。
• ただし、本人の強み(英語力・多文化理解・国際的視野)は進学やキャリアで大きく評価される。
• 将来的に「海外大学進学」「国際的キャリア選択」を自然な形、流れとして意識できるのはこのグループ。
「海外(アメリカ)滞在年数」は、それだけで帰国子女の背景を決定づけるのではないが、それは、帰国子女の背景に大きな影響を及ぼし、一人ひとりに異なる状況を生み出している。まさに帰国子女の歩んできた道は千差万別であり、個別に応じた理解と対応が不可欠である。
第1弾では、その多様な背景を捉えるための基本的な視点として、滞在年数に焦点を当て、考察を試みた。
では、私たちはこの情報をどのように活かせるのか?
◆「海外での経験や多様な文化を教室や学校で活かす機会を作る」
本人が海外での経験や体験、身につけた能力などをプラスに捉え、それを活かして行こうという意欲を持てるようにリードする。
◆「受け入れの際には、個々の生徒の海外滞在期間について調査をする」
個別のニーズ(何を活かし、どんなサポートが必要か)をしっかりと把握する
◆「日本語や学習面での見えないギャップを理解し、補習や個別の配慮を検討する」
本人のニーズ(何を活かし、どんなサポートが必要か)をしっかりと把握する