「箱の中身」
何十年にも亘る高等学校教育の改革の流れを経て、今や公立・私立を問わず、高校にコース区分があるのは当たり前になりました。専門学科とは違い、コース設置は普通科の枠内で出来るため、専門学科を設置する際に必要な人員・設備等の条件を満たす必要がありません。つまり、新コースという「箱」は現有戦力の大幅な増強なしで作ることができます。そして、新コースという「箱」を設置した段階で生徒・保護者の多様なニーズに応える準備が出来たと学校の運営者側が考えるのは当然のことです。だから、この同じ発想で海外大学進学へのニーズに対しても「箱」を作ることによって応えられると運営者側が考えるのも至極当然なことです。
「海外進学コース」や「グローバルコース」といった「箱」がなくては生徒募集が出来ませんが、海外大学進学は国内大学への進学とは性質が異なるため、カリキュラムや各教員の授業における工夫だけでは済まない「箱の中身」にかかる幾つかのチェックポイントがあります。学校として海外進学をサポートする場合、海外進学指導が分からないからといってサポート団体に丸投げし、学校が海外大学進学の「基礎となる」「英語を使った魅力的な」授業ばかりしていたのでは失敗は目に見えています。
ここから数回のコラムでは、海外進学コースの中身にかかるチェック項目を幾つかご紹介します。それぞれの項目は担当としての私の実務経験に基づいたものですが、これら全てを満たさなくてはならないという意味で紹介するのではなく、それぞれの項目について自校の対応はどうかという問いかけとしてご紹介します。
1 そもそも「コース」にして定員を決める必要があるか
海外進学コースを設置して定員割れが発生すると、学習塾や競合校の入試部などの知るところとなり、次年度以降の広報活動にも影を落としますが、だからといって定員割れを防ぎたいがために合否基準で妥協すると、新入生の入学後の指導で大いに苦労することになります。
国内大学との併願を認めるコースでは、モチベーションの低い生徒が「海外大学がダメなら国内大学でいい」といった発想になりかねず、こういった生徒への進学指導は困難を極めます。以前のコラムでも言及しましたが、国内大学との併願は海外大学を中心に準備するであれば可能ですが、国内大学で合格する程度の準備だけで合格できる海外大学を探すという発想では選択肢が非常に限られてきます。
モチベーションは元々生徒の中にあるものか、それとも学校が高めるものかという議論はありますが、モチベーションの高い生徒が入学し、3年後に第一期生として立派な進学実績を出してくれることを第一に望むのであれば、コースを設置して定員まで決める必要はなく、「若干名」を定員とするコース内の「プログラム」のような下位区分として設定すれば十分です。
この場合、どのコースの下位区分にするかが重要になります。海外進学クラスをコースとして設定した時も同じ問題が発生しますが、どのコースとの共修科目を履修させるかが大きな問題になります。日本の高校の常として、いわゆる「上位の」コースは国公立大学への進学を想定したコースが多いのですが、こういったコースは教科・科目数が多く、海外大学進学の準備をする生徒の足を引っ張ることが考えられます。そこで「主として専門学科において開設される各教科・科目」や「学校設定科目」の開講を考える必要が発生するのですが、この点については別のコラムで触れたいと思います。
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