2025.6.14 進路指導

海外進学コースのチェックリスト その2

森 成業 写真
海外大学進学研究会コンサルタント森 成業Seigyo Mori

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2 生徒はGPA4.0以上が維持できるか

高校の評定平均は海外大学にアプライする要件の中にもありますが、この評定平均のことをGPA (grade average point) と言います。表題のGPA 4.0以上という要件は、国内大学の総合型選抜 (旧AO) や学校推薦型選抜 (公募推薦) でもよく見かけますが、国内大学の場合は4.0未満でも応募出来る大学が多数存在します。しかし、入試のない海外大学では、合否判定が書類審査で行われるので、生徒の学力は基本的に高校のGPAで評価されます。ここでGPAが4.0以上であることが非常に大きな意味を持ちます。

海外大学の中で一定のGPAをアプライの要件としている大学は、多くが4.0 (「B」という表記もある) 以上を要件としています。例えば、オーストラリアニュージーランドにはGPAが4.0以上あれば「ファウンデーション・コース」(foundation course; 予備コース) を経由せずに学士課程に入学できる大学がありますが、4.0未満となると、その選択肢はほとんどありません。アメリカやカナダの大学の場合はGPAをアプライの要件にしている大学がほとんどありませんが、それでも4.0未満の場合は、GPAに代わる学力の証明としてアメリカの標準学力テストである SAT® のスコアを提出するかどうかを検討する必要が生じます。このように、GPAはアプライする大学の選択に大きく関わります。

高校の評定の出し方が文科省の言う「目標に準拠した評価」、つまり純然たる絶対評価に基づいているのなら、頑張った生徒が全員オール5になっても不思議ではないのだから GPA は問題になりません。しかし、現実には圧倒的多数の高校で相対評価の要素が加味された、いわゆる「相対的絶対」乃至「絶対的相対」の評価を実施しており、そのことは同じ授業を受けている生徒の中で誰かに4が付き、誰かに3が付くことを意味します。前回のコラムで他コースとの共修科目に言及しましたが、海外大学進学を希望する生徒がいわゆる「上位の」コースの生徒達との共修科目を履修した場合、GPA 4.0を維持することが困難になる可能性があります。これを防ごうとするのなら、評価・評定について高校による何らかの対策が必要になります。

3 理系の生徒に対応しているか

海外大学進学を希望する日本の高校生のほとんどが文系の生徒であることは周知の事実ですが、この傾向は今後も変わらないと見込まれます。現在も英語は暗記教科であり、教員の思いが何であれ、現実には暗記が苦にならない生徒が「英語が好きな」生徒であり、その「英語が好きな」生徒が海外大学を目指し、一方で暗記が嫌いな生徒が理系を選択する図式には変化の兆しが見られません。

この現状を受けて文系のみに対応した海外進学コースを作ったとしても、それは何ら不思議ではありません。生徒のSAT®受験を想定しても、SAT®の数学の試験範囲は、ほぼ現行の数学Ⅰ・数学A・数学IIの範囲内であり、これは典型的な文系のカリキュラムで十分対応が出来ます。また、アメリカの大学は学部・学科単位ではなく大学単位で合否が出るので、文系の生徒が大学3年生の段階で理系分野を学ぶことは可能です。

しかし、アメリカ以外の大学で理系分野を学びたい場合は、アプライの際に高校の英文成績証明書 (transcript) において理系科目を履修したことを証明する必要があります。このうち最も厄介なのはカナダの大学で、例えばブリティッシュコロンビア大学 (the University of British Columbia) の engineering (工学) にアプライしたい場合、高校で Senior-level Math (Pre-Calculus) と Senior-level Chemistry とSenior-level Physics を履修していることが求められます。ここで Pre-Calculus とは微積分の準備として学ぶ数学の範囲のことで、幾何 (の一部) と代数と三角法の3つを総称的に表したものです。また、Senior-level Chemistry とは (基礎科目ではない)「化学」のことです。オーストラリアの大学も、履修科目に関する要件を設定している点は同じです。例えば、オーストラリア国立大学 (the Australian National University) で engineering を学びたい場合、prerequisites (必須科目) として、オーストラリア各州の教育事情に応じた必履修科目の内容が事細かに記載されていますが、この内容を高校で履修したことを証明するためには数学IIIまでの履修が必要です。

こういった履修科目に関する要件以前の問題として、生徒が海外の大学で理系分野を学びたいにも拘らず、カリキュラムの都合で文系科目ばかり履修することになれば、生徒のモチベーションを大きく下げる要因となります。

理系生徒に対応したコース作りをする場合でも、高校1年生の文理選択の時までに、生徒がある程度自分の学びの方向性・路線を把握できるよう進路指導をしておく必要がありますが、文系生徒のみに対応したコースの場合は、これに加えて生徒募集時に学校説明会等でその旨周知徹底しておかないと、後に保護者会等で担任が矢面に立たされることになります。