10 AP®の導入を視野に入れているか
英国の大学の場合、日本の高校を卒業しただけでは学士課程にアプライする資格がなく、foundation course (予備コース) からのスタートが求められます。これは日本の大学でいう一般教養課程に該当する部分を英国では高校段階で学習するためであり、この課程を sixth form と言います。英国の生徒は sixth form で学んだ後、GCE A-level という試験をふつう3・4科目受験し、この試験の結果で要件を満たしている大学にアプライします。foundation course で所定の成績を収めると GCE A-level の代替となりますが、GCE A-level の代替はこれだけではなく、米国の College Board が提供する SAT® という試験で所定の点数を取った場合も A-level の代替と見做す大学があります。そして SAT® より更に活用出来る英国の大学が多いのが「アドバンスト・プレイスメント」(Advanced Placement®: AP®) です。
英国の大学へ GCE A-level の結果でアプライする場合は、ふつう3科目以上の提出が要求されますが、AP® の結果でアプライする場合も、ふつうは3科目以上を提出することが求められます。しかし、英国の大学の多くにとって日本や他国の高校生が AP® の試験結果を提出することは珍しいらしく、AP® を international qualification としてではなくてアメリカの資格としてアプライの要件に挙げており、日本の高校生がそのアメリカの資格を持っていればアプライ出来るという書き方をしています。
この AP® と同等の価値を持つのが IB® (厳密に言えば IB® の中の Diploma Programme) ですが、二つは多くの違いがあります。IB® は6教科 (の中から1科目ずつを履修) と3科目の「コア」(DP core; 応用学習) のパッケージですが、AP® は1科目から設置出来ます。この違いはコースを設置する高校側にとって重要な意味を持ち、それは準備期間と費用の面において表れます。まず、コースの認定のみにかかる期間は IB® が最速で約1年半 (ふつうは2・3年) であるのに対し、AP® は1年を切ることが可能です (ふつうは1年間)。これは AP® の認定が AP Course Audit という College Board によるシラバスのチェックによって行われ、このチェックの結果が資料提出後60日以内に返ってくるからです。次に費用面を見ると、両者は桁が一つ違います。試算方法によって金額は勿論大きく変わりますが、IB® の認定にかかる費用が全体で最低約500万円はかかるのに対し、AP® は3科目を教える場合、全体で約50万円に抑えることが可能です。これは IB® の認定過程で必須受講の教員研修 (workshop) が多く、加えて、各種手数料もかかる点に理由があり、これに対し AP® の認定で強く推奨 (必須ではない) されている教員研修は指導科目にかかるものだけであり、1科目の研修費が最大で1,400米国ドルであるためです。また、IB® コースの運営費用を押し上げる要因の一つに教員の資格の問題があります。両者とも認定校となるために必要な教員資格は存在しませんが、AP® と違って IB® には IB educator certificates (IBEC) という資格があり、この資格が「世界的な資格」であるが故、臨時教員免許証があろうとなかろうと、資格保有者はより良い条件を求めて世界中を渡り歩くので自校の教員としては定着せず、結果として人員確保のために人件費を押し上げるケースがあります。授業の質の確保は勿論大事なことですが、外部委託は校の予算とも相談すべき案件です。
AP® の使い道は、英国の大学へのアプライだけではありません。一般教養課程に該当するコースを米国では general education (gen-ed) と言い、カナダでは breadth requirements や elective courses と言いますが、ともに日本と同様、一般教養課程は高校ではなく大学で履修します。こういった国では AP® のスコアを単位として認定するところが沢山あります (IB® のスコアも単位認定の可能な大学が沢山あります) が、これは生徒にとって大学進学後に履修する科目が減らせることを意味します。なお、AP® のスコアを単位認定する米国の大学は College Board の AP Credit Policy Search というページで検索することが出来ます。
AP® の学習者用ツールは College Board の AP Classroom から学校を経由して無償提供されます。しかし、無償提供はこれだけではなく、Khan Academy という完全無料のオンライン学習ポータルが AP® の自学自習用教材を提供しています。
新たに海外進学コースを設置しようとする高校が初めから AP® コースを設置することには明らかに無理があり、また、AP® が日本の大学の一般教養課程レベルの内容だということを考えると、生徒の実情も考慮しなくてはなりません。しかし、上述のとおり、アプライする大学の選択肢を増やす点などで AP® は強力なツールとなり得ます。
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