海外大学進学のサポート体制が全くない高校にいる生徒でも、海外の大学へアプライをすることはあります。この場合、生徒は教育コンサルタント、あるいはエージェント・海外進学塾など、海外大学進学をサポートする何らかの団体から指導を受けているはずです。この生徒に対して学校として最低限しなくてはならないことは「英文成績証明書」(transcript) と「英文卒業証明書」(high school graduation certificate) の発行および「推薦状」(recommendation letter) の作成だけで、大学によっては推薦状さえ不要な場合があります。従って、「どこまで関わることになるのか」という疑問は「どこまで関わる気があるのか」と言い換えた方が理に適っていると思います。
英文成績証明書と推薦状を用意するのが担任である必要はなく、進路指導部の教員であっても差支えはありません。生徒がアプライする際に必要となるのは高校3年生の1学期までの成績で、これは国内の各種推薦試験と同じです。英文成績証明書はどの高校でも教務部が様式を保管していますので、後は各科目の評定・単位数など所定の内容を入力し、プリントアウト後に学校長の署名と公印 (英語圏はサイン社会ですが、大学側は毎年アジア圏の高校から多数の証明書を受理しているので公印はあった方が無難です) を貰うだけです。また、進学先となる大学などには卒業式後の英文成績証明書も後に必要となります。生徒はふつう推薦状を担任に依頼してくるとは思いますが、この推薦状も当該生徒を最もよく知る教員が書けばよいので、生徒によっては身近な教科担当や部顧問に依頼することがあり得ます。もっとも、担任としては生徒が誰に推薦状を依頼したのかは把握しておく必要があるでしょう。
大学やアプライの仕方にもよりますが、アメリカの場合、アプライする生徒に対して大学が高校の「カウンセラー」(counselor) を指名するよう要求する場合が多々あります。カウンセラーは日本の高校にはないものですが、敢えて言うなら「教科指導をしない担任」で、進路面だけでなく、学校生活のすべての面において生徒一人一人をサポートする存在です。アメリカの高校では、このカウンセラーが英文成績証明書や推薦状の提出に加えて自校の評定の出し方など教務関連の情報をアプライ先の大学に提出する役目を担います。
推薦状は合否決定の上で重要となる書類ですが、その作成時には、事実の羅列ではなく、生徒個人の数値化できない「人となり」が分かる文章を書く必要があります。クラスにせよ部活にせよ「○○委員として活躍した」ことや「全国大会で○位入賞した」ことに言及するのはよいのですが、これだけで終わらせず、そういった活動・結果をとおして生徒個人がどう成長したのかが分かる文章が必要となります。合否は「アドミッション・オフィス」(admission office) が決めますが、そこで審議されるものは数値化された成績だけではなく、数値化できない応募者一人一人の「伸びしろ」つまり入学後どれだけ活躍してくれるかという点もあります。そして合否はメンバーの挙手で決まります。名門校である Amherst College や Grinnell College での合否決定に至る審議の様子がYouTubeで視聴できますので、興味のある方はご覧になる事をお勧めします。
更に深い生徒との関わり方の一つに、生徒本人が作成する「パーソナル・エッセー」(personal essay) の内容をチェックすることが挙げられます。教員による推薦状はこのパーソナル・エッセーの内容や、アドミッション・オフィスとのインタビューで生徒が話す内容の一部を傍証する役割を果たすので、生徒が書いたり話したりする内容との間に矛盾がないかチェックすることも合格を勝ち取る上で重要です。
ここまで海外の大学にアプライする生徒と学校との関わり方を紹介してきましたが、海外大学卒業後のことを考えると学校の先生に是非関わってほしいことが一つあります。基本的な日本語の敬語と所作は主に学校生活の中で身に付けるものです。私もかつて進路指導部員として各種推薦試験の面接指導を行いましたが、敬語と所作がいい加減な生徒は沢山いました。日本の大学に進学する生徒達なら、その後も大学やアルバイト先などで大人の言動に触れる機会がありますが、海外進学組はその機会が激減します。就職先が外資系であれ日系であれ、彼等がやがて職業上様々な日本人とコミュニケーションをとっていく事を考えると、日本の大人として困らないよう、基本的な敬語と所作の指導は学校の先生方に是非お願いしたいと思います。
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