2025.3.15 進路指導

IB®コースを履修させないと生徒が海外進学で不利になるのか

森 成業 写真
海外大学進学研究会コンサルタント森 成業Seigyo Mori

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海外の大学で学生たちが笑顔で話す画像

文科省IB教育推進コンソーシアムが海外大学進学への IB® 活用を謳っていることもあって、私はこの質問を生徒・保護者からではなく、校内の他の教員から頻繁に受けました。IB® (厳密に言えばIB®の中のDiploma Programme) の履修は海外の大学にアプライする際にアピール材料として大いに役立ちます。しかし履修していないからといって望む大学に合格しにくくなるということではありません。これは IB® が海外大学進学全体においてどこに位置付けられているのかを知れば理解できます。 

下の図は私が当時の勤務校で説明会の際に使っていたスライドです。海外の大学教育は「アメリカ式」と「イギリス式」(「ヨーロッパ式」と呼んでもよいと思います) に大別でき、「イギリス式」の大学では専門課程のみを履修し、一般教養課程は高校で履修します。従って一般教養課程のない日本の高校を卒業しただけでは、イギリス式の大学にアプライする資格がありません。IB® はこの一般教養課程にあたるものです。

しかしイギリス式の大学が一般教養課程と見做すものはIB®だけではありません。イギリス式の大学には「ファウンデーション・コース」(foundation course; 予備コース) があり、ここで所定の成績を収めれば一般教養課程を履修したと見做されます。また、イギリス式の大学の中には、アメリカの SAT® (大学進学適性試験; 共通テストのアメリカ版) で所定の点数を取れば一般教養課程を履修したと見做し、ストレートで専門課程に入学することを許可するところもあります。また同じくイギリス式の大学の中には、高校での評定平均 (grade point average: GPA) が一定以上の場合は一般教養課程を履修したと見做す大学まであります。

一般教養課程を大学で学ぶアメリカ式の大学では、IB® の各科目の成績を大学の単位として認めたり、TOEFL® や IELTSTM といった英語検定試験の代わりと見做したりします。このように IB® の扱い方は国や大学によって大きく異なります。

海外の大学にアプライする際にIB®は高校生のセールスポイントとなりますが、注意点もあります。まず、IB® を履修しても、最終的に全体や特定科目の評価点が低いとイギリス式の大学でも専門課程への応募要件を満たさないなど、細かい条件を設けている大学側が多数あるという点です。そして、それ以上に注意すべきは IB® を日本語で履修した場合 (これを「日本語DP」と言います)、大学へのアプライに必要な TOEFL® や IELTSTM などの英語能力試験に出てくるアカデミックな英語に触れる時間があまり取れなくなる点です。IB® の履修期間は2年間ですが、IB® とは別に英語の能力を証明できなければ大学の応募要件を満たしません。私が勤務した高校の海外進学コースの生徒達は全員がふつうの日本の中学校を卒業した子供達であり、その子供達が英語能力試験で所定の点数を取るためには、準備のために相当な時間と機会を与える必要がありました。高校が学校設定科目を「合わせて三十六単位を超えない範囲で」設定できると文科省が言っているのは IB® に伴う特例措置であり、英語能力試験のための平常授業などでは設定できません。そうなると英語能力試験やエッセー準備などのための指導は早朝・放課後にせざるを得なくなり、生徒から部活動などの機会を奪うことになります。

なお、SAT® を実施しているアメリカの団体「カレッジ・ボード」(College Board) は、「アドバンスト・プレイスメント」(Advanced Placement®: AP) という、アメリカ版IB®とでも言うべきプログラムを運営しています。所定の成績を提出することによって一般教養課程を履修したとイギリス式の大学が見做す点は IB® と同じですが、IB® ではプログラム全体を2年間で履修するのに対し、AP® では1科目からの勉強が可能で、導入のしやすさからか AP® を学校設定科目として導入し、海外大学進学に役立てている高校もあります。