以前のコラムで私は「アドバンスト・プレイスメント」(Advanced Placement®: AP®) をご紹介しましたが、その中で IB® との比較を若干行い、海外大学進学においてはこの二つが同等の価値を持つことに言及しました。このコラムでは、前回とは違う観点から AP® と IB® を比較します。
IB® の普及とその背景について
文科省は「グローバル人材育成の観点から、我が国における国際バカロレア (IB) の普及・拡大を推進」しており、学校設定科目等についても「修得した単位数を、合わせて三十六単位を超えない範囲で当該国際バカロレア・ディプロマ・プログラム認定校が定めた全課程の修了を認めるに必要な単位数のうちに加えることができる」と定めています。これは2006年に最も大きく社会問題化した未履修問題と、その後の文科省及び各教育委員会の動きを考えると破格の待遇です。しかし他方で AP® について、文科省は参照・研究対象にはしましたが、制度導入を前提とした政策的検討を行ったことを示す資料は公表していませんし、制度導入の対象としていない理由も説明していません。この当然の帰結として、AP® の教育現場における認知度は今も低いままです。
文科省によるこの扱いの差は、「IB校を200校に増加させる」という閣議決定が2013年にあった事を受けたものですが、その後IB® の認定校が増えている (2025年現在でDPはまだ79校ですが) 理由の一つとして、シラバスを教員が一から作成しなくてよい点が挙げられます。IBでは各科目で指導する内容や評価方法が、実質的なシラバスである Subject Guide (非公開の公式ガイド) によって細かく規定されており、学校はその範囲内で授業を実施します。この事は IB® 各教科が科目のシラバスの核となる部分を国際バカロレア機構に委ねる事を意味します。つまり、各校は IB® で求められているシラバスの実施をとおして教員の資質向上を図り、ひいては教育改革へと繋げることが期待出来ます。毎年のシラバスデザインに多くの時間が割けない教員の現実を考えると、これは教員 (特に教科主任) にとっても有難いことです。
IB® と比べた AP® の柔軟性について
しかし、Subject Guide が指導内容を細かく規定している事には問題もあります。まず、当然のことながら、 IB® を導入すると校の実情を考慮したシラバス作成が難しくなります。また、以前のコラムでご紹介したとおり、IB® は6教科 (の中から1科目ずつを履修) と3科目の「コア」(DP core; 応用学習) のパッケージですが、これらの科目を誰が担当するのかという問題も発生します。
この2点について AP® の事情を見ると、まず校の実情を考慮したシラバスについて、AP® では各校がシラバスを作成し、それが College Board の AP Course Audit によって基準に適合しているかどうか審査されますが、そのチェックは主としてカリキュラム要件や教材等に適合しているかの確認にとどまり、IB® ほどの拘束は受けません。他方で AP® では、サンプルのシラバスや unit guide (単元毎の指導ガイド; 各授業で扱う内容や活動の方向性が記載されている) を採用する事も可能です。つまり、AP® では校の実情に応じて、校独自のシラバス作成かサンプルシラバスの採用かを選択することが出来ます。また、教科担当の確保についても、AP® は科目毎に申請する仕組みであり、1科目から設置が可能なので、問題にはなりません。更に、開講科目の審査についても、AP Course Audit は、教科ではなくて教科担当に対して行われるので IB® と遜色ない教員の資質向上が期待出来ます。
AP® の試験会場校だけになるメリットについて
日本の子供 (高校生とは限りません) が Khan Academy のような完全無料のオンラインツールで AP® の試験準備を行った場合、このコラムの執筆時点では日本で AP® コースを実施している高校が自校の生徒以外の受験を認めていないため、この高校生は海外の試験会場で受験することになります。外部受験を認めている会場はアジアに複数あり、その中で日本から一番近いのは韓国ですが、近場とはいえ、日本国内で受験出来ないのは非常に不便です。
AP® では、試験会場校に認定される過程と授業を認定される過程が完全に分離しており、高校が授業を教えず、試験会場だけになることも出来ます。これは英検®や模擬試験の会場校になることと大枠では同じであり、更に AP® の場合はいわゆる上代価格が存在しません。つまり、試験会場校は受験料を自由に設定することが出来ます。人員面さえ遣り繰りすれば、海外進学コースを持つ高校が AP® の test center になるだけで、在校生のモチベーションの観点からも、外部への広報の観点からも、大きなメリットを得ることが出来ます。
AP® 研究会の発足について
当海外大学進学研究会は現在、College Board に対して日本国内に test center を設置するよう働きかけています。また、当研究会は現在、高校教職員を対象とする AP® 研究会を発足する準備を進めております。この研究会ではこれまでにご紹介した内容の他にも、AP® と帰国生との関係など、様々な側面について情報を共有し、自校の海外進学コースを形骸化させず、コースを更に発展させる一助となるような AP® 研究を実施する予定です。
※当サイトおよびリンク先のサイトに掲載されているコンテンツの著作権および著作者人格権は、当研究会または各コンテンツの権利者に帰属しています。
※Advanced Placement®、AP®、は College Board の登録商標です。
※IB®は国際バカロレア機構 (International Baccalaureate Organization) の登録商標です。
※英検®は、公益財団法人 日本英語検定協会の登録商標です。 ※This website is not endorsed or approved by College Board or International Baccalaureate Organization.